大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(う)1876号 判決

被告人 家中喜一

〔抄 録〕

被告人の控訴趣意について。

所論原判示一及び同二の各犯罪事実は原判決の挙示する各対応証拠によつて、これを認めるに充分であり、記録に徴しても右認定に過誤は存しない。

ただ、原判決は原判示一の認定事実において、被告人が原判示宿泊飲食代金合計千五百五十円を支払わず逃走し以て財産上不法の利益を得た旨判示し、法令の適用においてこれを刑法第二百四十六条第二項に問擬しているのであるが、同法条項の罪が成立するためには、単に逃走して事実上代金の支払をしなかつたのみでは足りないのであつて、相手方たる債権者を欺罔して錯誤に陥れ、その結果相手方をして何らかの処分行為をなさしめ、それによつて自己または第三者が財産上利益を得たことを要するものと解すべきであるから、原判決が原判示のような宿泊、飲食をした後、その代金を支払わず逃走したことをもつて同法条項の既遂と解したことは失当といわなければならない。しかしながら原判示一の摘示事実によると、被告人は所持金なく、また代金支払の意思がないにもかかわらず、そうでないように装い原判示天徳旅館こと尾身秀方に原判示の両日宿泊して酒肴を提供させたというのであるから、右逃走前既に尾身秀を欺罔し前示代金に相当する宿泊、飲食をしたときに刑法第二百四十六条の詐欺罪が既遂に達しているのである。それゆえ被告人が右代金を支払わず逃走し、財産上不法の利益を得た旨の原判決の事実摘示は、結局無用の判示というべく、これを目して事実誤認ということはできない。

なお前叙の理由により原判示一の事実は刑法第二百四十六条第一、二項の包括一罪として処断すべきであるから、原判決がこれを同法条第二項のみに問擬したのは法令の適用を誤つたものというべきであるが、右のいずれによるもその法定刑には差異がないので、この違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるとはいえず、従つて原判決破棄の理由とはなし得ない。要するに論旨はすべて理由がない。

(谷中 坂間 司波)

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